「人の世から離れられないからこその主張」
昔のことばでよく「事実は小説より奇なり」と言われることがあった。ときにそれは真実であるしその逆さでもある。物語の世界では少数派というものは自然発生しない。限られた分量のなかで登場人物やストーリーを描いていくのだ。流石に全部まるごとすっかり書き示すことはできまい。
だからこそ人は自分好みの解釈を映し、そのために物語の中へ没入していく。
小説、つまり物語にはその確たる正解が見当たらない。読者によって形が変化していくぶん、物語は事実よりも奇天烈に捉えられるものなのだ。
「世界を多彩に飾るのは友情?恋情?親の情?」
ついこの間から、クラウドファンディングサイトMotionGalleryで映画製作のプロジェクトが始まった。タイトルは『愛おしくも優しくない世界』。
LGBTと呼ばれる人や人非ざるモノの情転がテーマとしてみえる自主制作映画である。
LGBTとは一般に言われる性的少数派の略称である。ついて詳しく知りたい方はググってみるといい。ちなみに昨今はLについての作品が多く見られ、その様子から一種のアートとして刺激を受ける方も少なくない。
映画『愛おしくも優しくない世界』は全部で四つの短編で構成されている。すべての脚本は主催者の高橋茉由 氏が書きあげている。以下それぞれあらすじの引用である。
”第一遍「檻の中のうち」 ※原案あり
ひとつの部屋で男が女を監禁している。
それをじっと見つめている死神。
生活を、言葉を、沈黙を、行動を重ねることで男女の関係は変質して…。
第二編「残影」
レズビアンとバイセクシャルの女性同士のカップル。
二人は交際2年目にして婚約を決める。
だが、ライターをしていたバイセクシャルの彼女はテロに巻き込まれて、亡き人に。
家族にカミングアウトできないまま
この世を去ってしまった彼女と最期の別れを許されない婚約者。
遺品であった手紙が死神の力で蘇った時、そこに綴られていた想いが人を動かす…。
第三篇「あなたのために」
ゲイのカップル。
その片方はバンド活動に勤しみ、恋人に貢がせて生活をしている。
貢いでいる恋人は解離性同一性障害を持っているが、
それぞれの人格が貢いでもらい生活をやりくりしている。
だが、その生活に対して大きな変化が生まれてしまう。
その変化に対して恋人は…。
いびつな関係性には、人間の損得勘定が隠れている。
第四編「繋がれども」
とある死神が、死期の近い人間と話をする機会を得る。
そして人が生きていく上で作る繋がりに興味を持ち
さまざまな人たちの人生の一部を覗いたり、関わったりすることで
気持ちに変化があらわれ、死を待つだけだった女性とともに限られた時間を過ごす。
仕事以外をした死神には、もちろん罰が待っていた。”
監督・高橋氏の前作である『花瓶の見る夢』、PVを見た限りでは今作品にも同種のテーマが踏襲されているようにも思える。
四編中その半分に「死」を連想させられることばがある。監督自身が「自分は少数派で、誰にだってそういう部分がある」と考えている。死は全員に等しく訪れる。その前で人には大も小もないようにも思える。今企画において如何にして活生の対岸を扱ったのか。結末においてそれらをどう考えるのか、退けるのか、受け入れるのか、逃れようと努力するのか。それは作品が出来てからでなければ判らない。
その援助は上で出来るのだ。観たい作品を自分たちで叶える。これがクラウドファンディングにおける作品製作の醍醐味でもある。
「キャストが変わると視点が変わる」
本作品『愛おしくも優しくない世界』では短編ごとに役者を変え、舞台を変え、主題歌さえもそれぞれのストーリーに専らう。
現在決まっているだけでも10数人のメインキャストたちがいる。その方々は舞台役者であったり、映像演者であったり、ソングライターやモデル畑出身の人もいる。
若い人ばかりと思えば、中堅齢の人もいたり、バラエティに富んだ人員で構成されている。
「作品イメージ」
タイトルと雨の街道のような背景、デザインは櫻井保幸氏で氏は第一遍「檻のなかのうち」の原案者でもある。
支援者に贈られるステッカーのイメージ画像だ。モデルはかおりかりん 氏と高橋茉由 氏で、
撮影が朝比奈里奈 氏である。抱えているのは森のなかであろうか、込められたメッセージを解き明かしたいところである。本リターンではこれとは違った本編の一画面が贈られる。
こちらも上と同じモデル・撮影。第二編「残影」のイメージ画像である。「残影」にはテロリズムに巻き込まれた女性と残された女性の奮闘記であったため、とても静かに写真を感じられる。
「最後に」
どうだろうか、読者のあなたは興味を出してくれただろうか。
そうでなくともLGBTや他の少数派、自分の少数属性に対して、何か思うところは生れただろうか。
「そんなの考えたこともない」?「煮て、焼いて、喰ったことない」?
よろしい、ならば映画を観に行こう。小説を読もう。